週刊東洋経済 2017年7/8号
書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。

グーグル、アマゾン、マイクロソフト…
ガリバーがAIについて本当に考えていること

話題はAI(人工知能)尽くしだった。今年5月下旬、米西海岸で開かれた開発者向け自社イベント「I/O」で、グーグルは「モバイルファーストからAIファーストへ」の方針の下に、30件以上ものAI関連のトピックを発表した。

今年5月、米カリフォルニア州マウンテンビューで開かれたグーグルの「I/O」。ピチャイCEO(壇上)らが、AIに関するトピックを30以上も発表した

一般ユーザーの興味を集めたものでは、自動翻訳などAI機能と連動した新しいカメラアプリ「レンズ」を数カ月中にリリースすると公表。また、米英で先行発売していた家庭用の音声アシスタントAI端末「ホーム」を、日本を含む5カ国でも年内に発売すると明らかにした。

法人向けでは、昨年発表したAI専用半導体TPUの第2世代を、クラウドコンピューティングサービスに本格導入するという。

こういったサービスや製品は、ユーザー層と収益の拡大という短期的でわかりやすいメリットをグーグルにもたらす。だが一連の発表でより注目すべきは、以下のような内容だ。

・クラウドTPUを1000個搭載したクラウド型スーパーコンピュータを、AIの研究者向けに無償で提供する。

・「Google.ai」という活動として、幅広い研究者や企業がAIの使えるコンピューティング・パワーを利用できるよう支援する。

・「オートML」というプロジェクトで、AIが自動的に別のAIのプログラムやアルゴリズムを生む手法の開発を進める。すでに成果は出ており、将来的には専門知識なしに誰でもAIを使えるようになりうる。

グーグルの新しいAI専用半導体・クラウドTPU。機械学習で高い性能を発揮するという

検索、モバイルに続きAIを民主化する

こういった短期的には収益に貢献しないように見える取り組みの根底には、「AIを民主化する」というグーグルの強い思いがある。民主化という言葉は、日本では政治的な意味で使われることが大半だ。だが米国のIT産業ではしばしば、「限られた人のためのものだった情報や資源を、誰でもアクセスし、利用できるようにする」といった意味で使われる。

特にグーグルは、民主化に強いこだわりを持っている企業だ。それは経営理念の「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスでき、使えるようにする」という一文に端的に表れている。

グーグルの祖業である検索エンジンサービスは、経営理念の「情報を整理する」部分に相当する。インターネット上に存在するサイトだけでなく、地図や動画、学術論文など、従来インターネット上になかった情報までユーザーが自由に検索、閲覧できるように整理してきた。

2008年に無償配布を始めたモバイル端末OSのアンドロイドは、どこでもインターネットに接続できるようになるという点で、経営理念の「世界中の人々がアクセスできる」という部分を実現する戦略だった。

検索エンジンの会社が端末のOSを作り、しかもタダでバラまくという戦略に当初、通信業界関係者は首を傾げた。だが現在、アンドロイドを搭載したモバイル端末は世界中に20億台以上ある(5月時点の月間アクティブ台数)。

そして今始まったAI戦略はおそらく、創業理念の最後の部分である「使えるようにする」を実現するものになるだろう。

3つの要因が重なりAIの春が来た

AIとは、人間の代わりにコンピュータが能動的に知的な作業をする技術だ。コンピュータ誕生以来、人間が夢想してきた技術だが、大きな期待とは裏腹に、実社会で役立つ成果はなかなか生まれてこなかった。

ところがその状況が、10年代に入り激変した。人間があらかじめ判断ルールなどを設定しなくても、コンピュータ自身がデータから傾向や特徴を学び、自ら答えを出す「機械学習」という技術が急速に進歩しているのだ(→関連記事へ)。

要因は、複数のAI研究者が優れたアルゴリズム(計算方法)を生み出したことに加え、ネット上の情報量が爆発的に増えた結果、コンピュータの学習材料が充実したことにある。さらにハードウエアの領域でも、大量のデータを高速で扱える半導体とコンピュータが登場した。これら三つの要因が重なったことで、世界にAI開発の春が到来しているのだ。

機械学習を使えば、従来ならキーボードでの文字入力やプログラミングがなければできなかった作業が、写真を撮ったりマイクに話しかけたりするだけでできるようになる。作業の速さや精度も、人間がやるよりはるかに優れている。こんな技術をITスキルのある一部の人だけでなく、一般人まで使えるようにする。それがグーグルの目指すAIの民主化だ。

AIプラットフォームは誰が勝者になるか

アクセスランキング バックナンバー一覧 TOP