日本を代表する最高学府・東京大学。急速に高度化するAIは、東大に入れるほどの知性を獲得できるのか。官民共同のAIプロジェクト「ロボットは東大に入れるか」(通称・東ロボ)は2011年、国立情報学研究所が中心となって始まった。現在のAIブームを先取りしたこの試みは、機械の可能性と限界をどこまで明らかにしたのか。プロジェクトリーダーを務めた新井紀子・同研究所教授に聞いた。

「東ロボ」プロジェクトリーダー 国立情報学研究所教授 新井紀子
あらい・のりこ●1962年生まれ。一橋大学法学部卒業。米イリノイ大学数学科博士課程修了。専門は数理論理学。2006年から現職。(撮影:今井康一)

──東ロボは現在のAIブームに先駆けてスタートしました。

このプロジェクトは、東大入試のような複合的な知的活動においてコンピュータと人間を比較し、AIにできること・できないことを科学的に明らかにするというものです。背景にあるのは、日本人のAIに対する知識や理解を深めて、極端な待望論や失望論が出ないようにするという狙いでした。わかりやすく言うと、AIが人間を超えるシンギュラリティばかりが議論の対象になるなんてことが起こらないようにと考えて始めたプロジェクトなんです。機械と人間の関係を考える社会コミュニケーションの試みといってよいでしょう。

私は産業界との交流も多いのですが、プロジェクトを始めた当時と比べて、AIの能力と限界をわかっている企業人が確かに増えた実感があります。ただ日本企業はトップが文系ということも多く、AIの技術でできること・できないことの違いがまだまだ伝わっていない。残念です。

──入試という評価軸では、どこまで達成できましたか。

進研模試の成績を使った判定では、全国の大学の7割で合格可能性80%を出せるようになりました。上位校でいうと、MARCH(明治、青山学院、立教、中央、法政)と関関同立(関西、関西学院、同志社、立命館)には合格できます。

ちなみに偏差値でいうと、5教科合計で57.1。世界史の偏差値が66.3と最も高い一方、英語のリスニングは36.1にとどまりました。

AIが圧倒的多数の若者の学力を上回っているという事実は、社会的にインパクトの大きいことだと思います。

──実社会では、AIはどんなことができますか。