178センチメートル、62キログラムの痩身に長い手足。アスリートたることを如実に示すのが、こぶのように盛り上がった両大腿(だいたい)部(太もも)の筋肉だ。

坂を駆け上がる姿には無駄な動きがいっさいない。走行中、バックパックの中にあるリザーバーと呼ばれるバッグからチューブを通して水分を補給する(撮影:尾形文繁)

鏑木毅(かぶらき・つよし)、48歳。舗装された道路ではなく、山野を駆け抜けタイムを競うトレイルランニングの日本での第一人者である。50歳を目前にして世界トップレベル。サッカーの三浦知良どころではないのだ。

鏑木は過去、国内のレースで軒並み優勝、欧州で行われる世界最高峰レースで3位になるなど、華々しい戦歴を誇る。さらに、富士山の周囲を巡るレースを企画、実行委員長も務めるなど、普及役としても先頭をひた走る。

横浜市緑区にある三保市民の森。住宅地のすぐ隣に、深山幽谷のような風景が広がっている。関東近郊の山が雪に覆われ登れなくなってしまう冬季によく訪れる、鏑木のトレーニング場所の一つだ。ある平日の午前、トレーニングを見学させてもらった。 

「最近、動体視力が下がって、下り坂でのスピードが前より落ちちゃったんですよ」

そう言うものの、足は次に踏み下ろす地点を的確にとらえ続け、体は躍動し流れ落ちる水のように無駄がない。上り坂も軽い足取りで、跳ぶように駆け上がる。

日に焼けた精悍(せいかん)な風貌は年齢にしては若いが、その人生は挫折の連続で、山越えレースのように凸凹だった。