現金の呪いーー紙幣をいつ廃止するか?
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Kenneth S. Rogoff●米ハーバード大学教授。専攻はマクロ経済学、金融経済学。1953年生まれ。米マサチューセッツ工科大学でPh.D.を取得。2001~03年IMF(国際通貨基金)のチーフエコノミスト。共著に『国家は破綻する──金融危機の800年』。チェスの天才としても知られる。

現金廃止は可能性を秘めた金融政策ツール

評者 BNPパリバ証券経済調査本部長 河野龍太郎

米国で流通する現金の約9割は100ドル札だが、ほとんどの人の財布の中に100ドル札は入っていない。実は、多くの先進国で流通する高額紙幣の大半は、脱税や犯罪など非合法取引で使われている。流動性が高く匿名性も高いため、地下経済では高額紙幣で取引がなされるのだ。多くの人の財布に1万円札が入っている日本はかなり特殊である。

本書は、金融政策論の世界的権威が高額紙幣の段階的廃止を訴えたものだ。現金の減少で、政府は通貨発行益を失うが、違法行為の抑制やそれに伴う税収増などで多大なメリットを得られると論じる。

実際、クレジットカードやデビットカード、スマートフォン決済の発達で、近年の北欧諸国ではキャッシュレス化が相当に進んだ。ただ、プライバシー保護もあり、少額の現金は残すべきで、目指すべきはキャッシュレス社会ではなく、レスキャッシュ社会だ。銀行サービスを享受できない貧困層にも十分配慮し、移行には最低でも10年をかける必要があるという。最近も欧州連合が500ユーロ紙幣の段階的廃止を決めた。

高額紙幣廃止には、もう一つメリットがあるという。長期停滞が懸念される中、マイナス金利の幅を広げ、金融政策の余地を拡大することだ。金利がゼロまで低下した後、先進各国の中央銀行は量的緩和を実施したが、大きな成果は得られていない。日本では賛否は分かれるが、残された政策手段として、マイナス金利に期待する研究者は多い。