2006年に登場した米グーグルの翻訳サービスの精度が昨年11月、驚異的に向上した。

たとえば米ウォールストリート・ジャーナル(ウェブ版)に掲載されている、トランプ米大統領の銃規制緩和に関する記事の一部を入力すると、即座に次のような和文に変換された。「州と連邦の法制が統合されれば、全米の隠し銃器の持ち込み制限を緩和することができる。これは、敵対的活動家の長年の目標である」。

表現のつたなさは残るものの、語順や助詞の使い方などが適切で、一読して文意を理解できる。自動翻訳は、単語の置き換えはある程度正確でも文章全体としては人間の翻訳者に遠く及ばない──そんな先入観を覆す精度といってよいだろう。

この飛躍的な精度向上を支えているのは、グーグルが自主開発したAI(人工知能)用のプロセッサー、「TPU(テンサー・プロセッシング・ユニット)」という半導体だ。翻訳精度はグーグル独自のAI技術「テンサーフロー」を導入したことで向上した。TPUはこのテンサーフローを最も高速かつ低電力で動かすために開発された。

TPU:TPUはCPUやGPUに比べ、TOPS/Watt(半導体の効率を示す指標)で30~80倍の性能を示すという。写真はTPUを搭載した基板。独自開発したサーバーのサイズに合わせて設計されている。

TPUの存在が明らかになったのは16年5月。グーグルが毎年開催する開発者向けイベント「I/O」で、スンダー・ピチャイCEOが基調講演の中で発表した。検索を中心とするソフトウエア企業と見なされていたグーグルが半導体を開発し、しかもすでに量産と実用の段階にあることは、ハイテク業界に大きな驚きをもって受け止められた。

TPUは翻訳やストリートビュー、画像検索など一般のユーザーが使えるサービスのほか、囲碁の世界チャンピオンであるイ・セドル氏を打ち負かしたAlphaGo(アルファ碁)にも使われている。アルファ碁が従来の囲碁ソフトよりもはるかに先の打ち手まで推測できたのは、TPUによって極めて高速で計算ができたからだ。