慶応義塾大学を卒業し、ワコールに入社した後、故・立川談志氏に弟子入りした立川談慶氏。立川ワコールと名乗った前座時代が9年半と長く、落語界で一人前と認められるまでの苦労が現在を支えているという。新入社員のコミュニケーション力向上に通じる、師弟関係を乗り切るコツと落語の持つ俯瞰(ふ かん)力(自分を客観的に見る秘訣)について聞いた。

落語家 立川談慶
たてかわ・だんけい●慶応義塾大学経済学部を卒業後、ワコールに入社。3年間のサラリーマン生活を経て1991年に立川談志18番目の弟子として入門。2000年に二つ目昇進を機に師匠に「立川談慶」と命名される。05年真打ち昇進。(撮影:尾形文繁)

──勝手気ままなことで有名な談志氏に何年も前座として仕えるのは大変だったのではないですか。

立川流は大所帯だが、師匠に大目玉を食らってすぐに辞めた人間も大勢いる。大雪の中たばこを買いに行かされて、それっきり戻ってこない弟子もいる。いまだに行方不明(笑)。

9年半も無駄飯を食わせてもらったが、それが今の自分の“地下資源”になっている。天性の才能で一気にスターダムにのし上がる芸人と違って、天才的なセンスがなくても、修業という手はずというかエチケットを踏めば、誰もが落語家になれる。その見本が僕だ。

本当に面倒くさい人だったから(笑)。「おい、何でこんなにぬるいお茶を入れるんだ」っていう談志師匠のおしかりは、「あっ、こういうお茶は入れちゃいけないんだ」というメッセージとして受け止められる。「こういう感受性が強い人には、こういう差配をすればいい」みたいな形で。

僕も最初は師匠に話す、アピールすることばかり考えていた。でもあるときふと「師匠の言うことを聞いてみよう」と思った瞬間に、相手の価値観が鮮明になってきて。訴えるのではなくて受け入れるということで、自分の幅が広がっていった。