小説『火花』で芥川賞を受賞し、作家としても評価が高い芸人・又吉直樹氏。完成まで2年以上を費やした小説第2作『劇場』が掲載された3月発売の『新潮』は、文芸誌としては異例の5万部(通常1万部前後)が発行されている。「どうやったら読者に伝わるか、自分なりに工夫した」と語る又吉氏に、新作『劇場』で狙ったこと、芸人の先輩との関係を通して得たコミュニケーション術について聞いた。

芸人 又吉直樹
またよし・なおき●1980年大阪府寝屋川市生まれ。高校卒業後、新人タレントを養成する吉本総合芸能学院(NSC)東京校5期生となり、2003年お笑いコンビ「ピース」結成。15年小説『火花』(文芸春秋刊)で芥川賞受賞。(撮影:今井康一)

──『劇場』のテーマの一つは人間関係ですね。

人付き合いは、僕がいちばん苦手な部分で。ただ、苦手なりにこうやってきたというのはある。

よく、「最近の若い人は飲み会に参加しない。それで先輩や上司とのコミュニケーションがうまくいくのか」という声を聞く。でも僕が考えるに、この人と飲みに行っても何の意味もないなという先輩や上司ってどの会社でもいる。面白くない先輩といかに飲みに行かなくて済むようにするかが大事。

そこで、パッと会社を見回して「この人がいちばんましやな」という先輩に自分から歩み寄る。先輩の多くは相談されるのが好きなはずだから、「あなたのことを頼っていますよ」というのを前面に押し出して近寄り、「僕は人付き合いが苦手で、学生のときもよく先輩に態度が悪いと言われることがあった。どうして尊敬している人にそんなふうに思われてしまうのか」などと話を振る。

そうすると、その人からの誘いを断ったとしても先輩は「これは前に聞いた状態だな。ここでキレたら格好が悪い。大目に見てやるか」と解釈してくれて、もし断ることがあっても、お互いにストレスを感じなくて済む。断るにしても工夫がいる。その工夫は先輩にはバレないようにしないとダメだけれど。