[記事のポイント]

(1) 生産現場出身の副社長が初めて誕生するなど、4月にスタートした新年度のトヨタの新体制が話題を集めている。

(2) トヨタの幹部は、系列企業の経営者として出向、転籍するが、そこにはトヨタを頂点とした暗黙の「序列」が存在していることがわかる。

(3) 6人いた代表取締役を2人に絞り込むなど、豊田章男社長への権限集中が進むが、「社長に苦言を呈する人が減っている」と心配する声も絶えない。

 

「豊田章男社長のメッセージが明確に出ている」。トヨタ自動車が3月1日に発表した2017年度の役員体制について、トヨタ関係者はそう口をそろえる。

最も目を引くのは生産現場で働く技能職出身である河合満氏(69)の専務役員から副社長への昇格だ。河合氏は企業内学校「トヨタ工業学園」の出身。中学校卒業後すぐにトヨタへ入った現場たたき上げで、技能職出身の副社長は初めてだ。もう一人、学園OBで現学園長の田口守氏(66)も専務役員に起用された。

章男社長が2人に託したのは、人材育成への目配りだ。トヨタ社内では最近、「人間力」という言葉が多用されているが、田口氏はこの意味を「豊田佐吉翁の創業精神や章男社長が2010年に作った心構えを理解し、行動していること」と解釈する。

企業理念を現場から役員までしっかり共有させるのが、河合氏、田口氏の役目ということだ。

章男社長から副社長への昇格を打診された河合氏は「専務のままでもできる」と答えたが、「専務を指導するときに専務のままだとやりにくい。副社長だといいでしょう」と説得されたという。年齢、経歴とも異例の人事だが、そこに「適材適所、誰でもいつでもチャンスがある」(トヨタ幹部)というメッセージが込められているのだという。

ほかに昇格したキーパーソンは専務役員から副社長になった永田理氏(60)、取締役専務役員から取締役副会長になった早川茂氏(63)がいる。永田氏は伊地知隆彦氏(64)の跡を継ぎ、CFOを務める。早川氏は会長の内山田竹志氏(70)から引き継ぐ形で経団連の副会長に就任することが内定している。トヨタからは章男社長の父で第6代社長の豊田章一郎氏(92)、第8代社長の奥田碩氏(84)を経団連会長に送り出してきたが、その後も副会長ポストを切れ目なく維持してきた。経団連副会長は大企業の社長か会長が就くのが通例。本来なら章男社長の順番だが、とても財界活動に時間を割く余裕はない。そこで渉外・広報畑の長い早川氏に白羽の矢が立った。トヨタで専務役員が副会長に昇格するのも初めてで、異例ずくめの人事といえる。

ほかに話題となったのは専務役員の友山茂樹氏(58)の担当業務の多さだ。コネクティッドカンパニーに加えて、ガズーレーシングカンパニーのプレジデントに就任、さらに事業開発本部本部長も務めるなど2カンパニー、2本部のトップを兼務するのだ。友山氏は章男社長が役員になる前からの付き合いで、信頼関係の強さが表れている。

人事・総務を統括する上田達郎氏(55)も新体制のキーパーソンの一人で、常務役員から専務役員に昇格した。新たに戦略副社長会事務局とコーポーレート戦略部の担当を兼務し、経営の中枢を担う。 

高まる章男氏の求心力、グループ人事の裏側