[記事のポイント]

(1) アニメ市場が2兆円規模に膨らみ、外資が流れ込んでも、制作現場は一向に潤わない。低賃金と長時間労働がはびこっている

(2) 2016年に興行収入で国内アニメ歴代2位のヒットとなった『君の名は。』。制作会社の川口代表はその収益をまず人へ振り向ける

(3) 『ソードアート・オンライン』は今年2月の国内公開と同時に海外2000館で上映を実現。その海外営業には独自の考えがあった

 

ヒットが相次ぐのは、偶然ではない。ヒット作を仕掛けた2人のキーマンには、緻密な戦略と強烈な危機感があった。

コミックス・ウェーブ・フィルム 代表川口典孝
人を雇用し育てなければアニメ制作はダメになる

(撮影:梅谷秀司)

誰も予見できなかったマグナムショットである。新海誠監督の映画『君の名は。』は、公開から7カ月近く経った今もロングラン上映中で、興行収入は246億円に達した。この実績は国内のアニメ映画としては宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』に次ぐ2位(上表)。映画全体でも『千と千尋』『タイタニック』『アナと雪の女王』を追う歴代4位だ。

「20億円は行くと思ったが、ここまでは予想しなかった。まだ夢の中にいるようだ」。そう語るのは、『君の名は。』を制作したコミックス・ウェーブ・フィルムの川口典孝代表。「なぜ成功したのか、正直言ってわからない。だが、このヒットで得た収益を何に使うべきかは、僕にとっては極めてクリアだ」。

2007年設立のコミックスは、社員数40人余りの小さなスタジオだ。それが今春、社員を一挙に15人採用する。同業他社から転職してくる中堅アニメーターもいるが、大半は新人。すぐには戦力にならず、当面はコストをかけて育成せざるをえない。つまり、人への投資が儲けの使途なのだ。「新海はもう飛び立った。それより今は業界が危うい」。