テレビCMが大好きだ。楽しいし、また書くうえで学ぶことも多い。極端に限られた時間内に告げたいことを的確に伝えるには、高度の技術がいるしそれを生む知恵がいる。特にエスプリに富んだCMに出合うと、やられた、と自分の生業である散文のもどかしさを痛感させられる。

挟むタイミングの妙にうならされることもある。ドラマの間に挿入されるCMは、実は異物の混入ではなく、本編の流れの一パートの役割を果たしている。つまりドラマの“中略”だ。CMを挟むことによって、ドラマの筋も飛躍できる。脚本の助っ人役になっている。特にCMの前に登場人物が病気や傷害に遭ったときに、その治療薬が宣伝されたりすると、思わず笑ってしまう。おぬしやるな、と画面に語りかける。

昔のCMでウイットに富んだ名作がいくつかあり、今もよく思い出す。海辺で美少年が家族と戯れている。それをこっちのほうから凝視している男がいる。真っ白なスーツに真っ白な帽子と靴。映画好きならすぐ思い当たる。ルキノ・ヴィスコンティの名作『ベニスに死す』で主人公の大作曲家を演じたダーク・ボガードの服装だ。大作曲家は浜辺で遊ぶビョルン・アンドレセンにあこがれている。こっちからしきりに秋波を送るのだが、なかなか伝わらない。