作品数が多すぎて、何を見ればいいのかわからない。そんな初心者のために「見るべきアニメ」を識者3人に選んでもらった(記事下表)。アニメが急速に増えた、2000年以降に制作された作品に限定することを条件とした。テレビ、映画は問わない。 

00年以降、アニメはどのような進化を遂げたのか、作品を紹介しながら考察していこう。

アニメ・特撮研究家 氷川竜介
ひかわ・りゅうすけ / 1958年生まれ。明治大学大学院兼任講師。文化庁メディア芸術祭アニメーション部門審査委員など。

文芸評論家 町口哲生
まちぐち・てつお / 近畿大学講師で受講条件は「週20本超のアニメ視聴」。著書に『教養としての10年代アニメ』(ポプラ社新書)。

プロデューサー 安齋昌幸
あんざい・まさゆき / 「アニマゲー」「Rの法則」など多数の番組を企画・制作。早稲田大学理工学術院非常勤講師。

識者3人が太鼓判『まど☆マギ』のすごみ

まず、全員一致で選ばれた名作は、⑧『魔法少女まどか☆マギカ』。「萌えアニメと思って見ると、3話目で奈落に落とされる」(プロデューサーの安齋昌幸氏)。アニメ・特撮研究家の氷川竜介氏も「深夜アニメの総決算。この作品以後、日本のアニメは非常に作りづらくなった」と称賛する。その魅力は、生死の境で繰り広げられるどんでん返しのストーリー展開にある。「10年代に増えた絶望少女系アニメの先駆け。少女たちが敵と深い絶望に立ち向かう設定を生み出した」と、文芸評論家の町口哲生氏は最重要作品の一つに挙げる。

テレビアニメの表現を変えたのが、02年のSF作品①『攻殻機動隊S.A.C.』。「それまで省略されてきた群衆や車を、3DCGで表現した」(氷川氏)。これ以後、日本の制作会社はアナログからデジタルへ移行してアニメの表現に奥行きが増す。

ストーリー展開で衝撃を与えたのが、SFミステリー映画③『パプリカ』。「映像そのものにトリックがふんだんに盛り込まれている。アニメの文法そのものを変えた」(氷川氏)。フランスで「30世紀の映像を見ているようだ」と高い評価を受けたほどの映像美も見どころだ。

『君の名は。』を見た人にお薦めなのが、②『ほしのこえ』。新海誠氏の初監督作品で、遠距離恋愛をテーマにしたSFアニメ。「新海氏のスピリットは変わっていないことがわかる。“セカイ系”を理解するうえでも最適」(安齋氏)。セカイ系とは00年代のアニメジャンルの一つ。主人公とヒロインの関係が世界の危機と直結するような物語構造が特徴だ。

反社会的なテーマを扱ったのが④『コードギアス 反逆のルルーシュ』。主人公はテロリストで正義のヒーローとは正反対だが、「常識やモラルを引っ繰り返した作品。社会を考える題材として面白い」(氷川氏)。

『けいおん!』は、平凡な日々を描く“日常系”ジャンルのヒット作だ。高校の軽音楽部が舞台で、事件など起こらず、女子高生のたわいない会話が続く。「かわいいキャラをめでながら、気持ちを解放したいニーズにはまった」(氷川氏)。この頃から、バイオレンスやエロが多かった深夜アニメが多様化していく。

安齋氏をして「長年、戦ってきたオタクとサブカルを融和させた奇跡的な作品」と言わしめるのが、⑦『四畳半神話大系』。スタイリッシュながら、セカイ系などアニメ定番の仕掛けが多くオタクの支持も得た。

大人こそ楽しめる作品が⑩『輪(まわ)るピングドラム』。色彩鮮やかな映像で、「文学やアート、哲学がちりばめられている」(町口氏)。ポップな内容だがテーマは運命と家族で重厚だ。⑨『TIGER & BUNNY』はハリウッドでの実写化が決まった。アメコミ風の作品で、主人公は要領の悪いサラリーマンヒーロー。「独自色を出したネオヒーローものでストーリー展開が上手」(町口氏)。ヒーロー二人の相棒関係に、BL(ボーイズラブ)要素を感じる女性ファンも多い。

「作り手と受け手があいまいになった作品」(安齋氏)が、⑪『アイドルマスター』。個性豊かなキャラそれぞれにファンがつき、二次創作のネット動画が盛んにアップされた。それを踏まえて制作側がキャラを作るなど、双方で盛り上げた好例だ。

“聖地巡礼”ブームを牽引したのが、⑫『ガールズ&パンツァー』。女子高生が部活動として戦車で戦うストーリーで、戦いの舞台となる茨城県大洗町にファンが詰めかけた。戦車の作画もミリタリーファンを納得させたが、人気のポイントは「弾が当たっても美少女キャラが死なないところ。最近はシリアスな内容ではウケない」(安齋氏)。

『エヴァ』を見ずして アニメを語る資格なし

『PSYCHO-PASS』は、「踊る大捜査線」の本広克行氏が総監督を務めた。100年後の未来社会が舞台で、犯罪係数が計測されて潜在犯が裁かれるという社会的・政治的な内容を扱う。「ニーチェなどの哲学や社会学、アートからも多数引用が見られる。大学院レベルの教養が満載」(町口氏)。未来を予知した問題作には⑮『COPPELION』もある。アニメの企画がスタートしたのは10年だが原子力発電所のメルトダウンで東京が死の街と化す様子を描き、「東日本大震災を予言したといわれた」(町口氏)。完成後も地上波では放送されず、舞台は東京から旧都市に、メルトダウンでなく事故と表現が改められた。

興行収入42億円を記録した文芸アニメが映画⑭『おおかみこどもの雨と雪』。細田守監督の長編4作品目で、東宝の川村元気プロデューサーが参画している。エンタメ要素満載かと思いきや、「母が一人で子ども二人を育てる渋いテーマ。こんな普遍的なテーマを追究し、アニメにする細田監督に驚いた」(氷川氏)。

日常系アニメでは⑯『のんのんびより』が王道だ。舞台は田舎町の分校で、小学生から中学生までが一緒に学ぶ。最年少の幼女は不思議キャラで、「都会だといじめられそうだが、田舎だからのびのび育つ。温かなコミュニティが成立しており、見ていると心が安らぐ」(安齋氏)。

『SHIROBAKO』は、ブラックなアニメの制作現場が舞台。萌えキャラが登場する一方で、実在するアニメ業界人がモデルのキャラを登場させてSNSで話題を集めた。「新人が芸術至上主義といった青臭い理想論を語るところに、業界へのリスペクトを感じる」(安齋氏)。

『響け!ユーフォニアム』も完成度が高い作品だ。高校の吹奏楽部で繰り広げられる努力、友情、勝利を描く部活もので、「演奏対決の回では、演奏者ごとに楽器の音を変えて録音されていた」(安齋氏)。制作した京都アニメーションの作画も美しく、細部へのこだわりが光る。

そして社会現象を巻き起こしたのが⑲『ラブライブ!』。高校生がアイドルを目指して奮闘する様子を描き、声優たちが登場人物に扮してライブで歌う。「アニメのあり方を変えた作品の頂点」(氷川氏)。同じく話題になったのが⑳『おそ松さん』。六つ子が成人した設定で、キャラの性格を明確に分けて人気声優が演じた。基本的に六つ子の顔は同じだが、「BLファンは声と性格で見事に違いを読み解いた」(氷川氏)。

最後に挙げる作品は、⑤『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』。3作品あり、「1作目は過去の復習で2作目から新しい要素が入り、3作目を見て完結編に備えたい。過去20年を見ても『エヴァ』はキング・オブ・ポップカルチャー。これを見ずしてアニメを語る資格なし」(町口氏)。完結編『シン・エヴァンゲリオン劇場版』は現在制作中で、公開時期は未定だ。

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映画・アニメ

興行収入は高水準、アニメは回復傾向

邦画、洋画ともシリーズ物の公開が多く、興行収入は高水準が続く。背景には、デジタルカメラとデジタル上映館が普及し、低コストで制作が可能になったことがある。次世代映画といわれる「MX4D」「IMAXデジタルシアター」などは追加料金が必要だが席が先に埋まる傾向にあり、平均入場料を押し上げている。アニメは、動画配信など活動領域が広がったことで、市場は回復傾向にある。