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日産自動車の16年度中間決算は7年ぶりの減収減益だった。世界販売台数の4割を占める北米市場では、シェアが過去最高だった一方で業績悪化が顕著だ

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北米市場における日産のシェアはこの5年間で1%上昇しているが、数を追うために投入している1台当たりの販売奨励金はホンダのほぼ2倍に上る

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東南アジアの大苦戦で、北米に目標達成の重圧がのしかかる。現地の販売ディーラーからは、ブランド構築より量を追い求める姿勢に疑問の声が上がる

 

「2016年度上期は為替変動の逆風に直面したが、確かな業績を達成できた」──。

日産自動車の16年度の上期決算は、中間決算としては7年ぶりの減収減益となった。前年同期を売上高で10%、営業利益で14%下回り、成長軌道に陰りが出た形となった。通期でも減収減益を見込む(図表1)。カルロス・ゴーン社長によると、これは円高や新興国通貨安など為替影響の逆風によるものだという。

[図表1]
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しかし、久しぶりとなった今回の減益決算には、注目すべき別の要因がある。日産の世界販売台数の4割を占める屋台骨、北米地域の業績が著しく悪化しているのだ。

上期決算資料によれば米国は台数増で営業利益を601億円押し上げたが、インセンティブ(販売奨励金。値引きなどの原資となる)で774億円もの追加費用がかかった。言うなれば、車を1台売るために、それによって得られる利益を上回るコストをかけていることになる。

北米事業は販売台数、シェアいずれも前年同期を上回り表面上は好調そのものだが、営業利益は結果として前年同期を3割近く下回った。

[図表2]
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[図表3]
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いったい、米国の販売現場で何が起きているのか、17年1月、新年を迎えたばかりの米国に飛び、現地を取材してみると、日産が抱える歪みの存在が明らかになってきた。

販売奨励金を目当てに新車を大幅に値引き

全米第2の都市、ロサンゼルス。郊外にある日産ディーラーは平日午前中でも客がそれなりに入っており、販売が堅調なことをうかがわせる。この店で2年働いているという若い男性営業員が中型セダンの「アルティマ」を例に、どのように新車を値引きしているかを教えてくれた。

「アルティマは定価が約2万4000ドルからだが、インセンティブとして日産本社の2000ドルにディーラーの2000〜3000ドルを合わせれば、最大5000ドルぐらいは安くできるよ」

他メーカーの販売店を訪ねると、定価がほぼ同じトヨタ自動車の「カムリ」やホンダの「アコード」の値引き幅は「最大3000ドル程度」と話しており、日産の安売りが目立つ。

米調査会社オートデータによれば日産の1台当たりインセンティブはホンダのほぼ2倍で、業界平均を2割上回っている(図表4)。

[図表4]
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日産の値引き幅の大きさには、同社が採用する特殊なインセンティブのプログラムも関係している。

通称「ステアステップ」。店舗の月間販売台数が増えるにつれて、1台当たりのインセンティブが階段のように引き上げられるためそう呼ばれる。ディーラー権売買について助言する米ヘイグ・パートナーズによれば現在、米国でステアステップを大々的に展開しているブランドは日産と米クライスラーのみで、米フォード・モーターは昨年10月にプログラムを中止した。目標に設定される台数や金額は販売店の規模や季節によっても異なるが、北米日産は「他社との競争上、詳細は開示できない」(広報)と回答する。

ただ先のロサンゼルスの店舗によれば実態はこうだ。北米日産が設定する月間販売目標を達成した場合、同店オーナーに対して25万ドル(約2800万円)ものインセンティブが支払われる。オーナーはこの巨額のインセンティブを使って管理職や営業員にボーナスを支給したり値引きしたりする。ゆえに目標達成が何より優先され、月末には原価割れ同然の「スペシャルディール」が実施されることも多いという。

目標まであとわずかとなった昨年12月下旬、同店の店長は「最後の週末に一人5台売れば1000ドルのボーナスを出す」と営業員にハッパをかけた。しかし二人しか達成できなかったため、最終的に販売店自ら5台購入し目標に到達させたと話す。昨年は同様のやり方で目標をギリギリ達成した月が3度ほどあった。だが店で買った車を中古車市場で売り払うときに含み損が発生するため、自店で購入できるのは1カ月10台が限界だという。販売店で働くスタッフにも「社員割引」をテコに積極的に新車購入を勧めているという。

日産はさらに個々の営業員にもステアステップを導入している。「月に8台新車を売れば1台につき50ドル、12台売れば1台につき100ドル、15台売ればいくらというようなインセンティブが、日産から営業員個人に支払われる」(前出の営業員)。彼が以前勤めていた日本車ディーラーには同種のプログラムはなかったという。

同店によると、ステアステップの目標は年々引き上げられる。「一昨年よりも去年、去年よりも今年と、インセンティブをもらうための販売台数は増えている。自分たちはつねにお尻をたたかれ続けている」とこの営業員は困惑ぎみに言う。販売が低調なまま改善が見られないと「契約解除」もちらつかされる。そんなときは実績のあるマネジャーを急きょ引き抜きしのいだこともあった。

現場には疲労が募り退職者も相次ぐ。営業員が20人程度いるこの店では、過去2年で40人近くが辞めていった。「半年後に来てもらったら、今の営業員は全員替わっているだろう」とこの営業員は肩をすくめる。

南カリフォルニアにトヨタやホンダ、フォードなど複数のディーラーを持つ販売会社オーナーは「日産ディーラーはいちばん稼いでいてもトヨタやホンダのディーラーの平均レベルだ。大半の販売店の収益性は低く、ステアステップの影響で収益の毎月の変動が激しい」と話す。16年の1店舗当たりの平均税引前利益(推計)はトヨタが250万ドル、ホンダが210万ドルなのに対し、日産は100万ドルと業界の中では低位に甘んじる。15年との比較ではトヨタは9%増、ホンダは4%増だったが、日産は23%の減少となり調査対象の15メーカー中、最大の落ち込み幅だった(ヘイグ・パートナーズ調べ)。

このオーナーは最近、経営に疲れた近隣の日産ディーラーから経営権を購入しないかと持ちかけられたが、すぐさま断ったという。「投資するメリットがない。今後も日産店を買うつもりはない」と断言する。

販売奨励金と並び日産の歪みを象徴するのは、「販売金融」の問題である。日本と同様、米国でも車は即金で買わず、ローンやリースといった販売金融を利用する人が多い。

日産ディーラーには2〜3年前に販売された中古車や型落ちの新車が並び、値引きが強調されていた

下落する中古車価格 「残価ロス」のリスク

現地のある日系ディーラーの店員は「日産はホンダやトヨタと比べて、クレジットの審査が甘い。クレジットヒストリー(返済履歴)が悪くてもリースやローンの契約を通してしまう」と明かす。米国におけるリテール(小売り)部門の販売金融債権のロスレシオ(損害率)がじわじわと上昇しており、焦げ付きリスクが以前より高まっている(図表5)。

[図表5]
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さらに懸念されるのが、リース販売に伴う「残価ロス」拡大である。

ロサンゼルス近郊にある中古車販売会社の社長は「日産は3年後の残価をあえて高めに設定することで、月々のリース料金を低めにして、販売の呼び水にしている」と警戒する。だとしたら、これは非常にリスキーな販売手法である。

リース販売では、一般に3年後の残存価格(残価)をXドルと想定し、本体価格からXドルを引いた差額に金利を加えたリース料を36回払いで月々支払う。日本では分割払いが主流だが、リース販売は頭金次第で月々100〜200ドルで車を利用できるため米国ではなじみ深い。3年が経ちリース期間が終了すると、消費者はメーカーに返却するか、買い取って乗り続けるかを選択する。

リース満了後にメーカーに返却されたリース車は中古車市場に売られるが、そのときの実売価格が当初の想定残価Xドルよりも低いとメーカー側に損失が発生する。

08年、米国でリーマンショックが発生したとき、自動車メーカーの収益が急落した主因は、ほかならぬこの残価ロスだった。中古車市場が暴落し、各社は巨額の残価引当金を計上する事態に陥ったのである。

中古車の実売価格が、日産が想定する高めの残価でとどまれば何の問題もない。だが、この中古車販売会社社長によれば、同じような車種、年式、走行距離だと、日産車はほかの日本車に比べて2割ぐらい中古車価格が低くなるという。新車販売時に多額のインセンティブを積んでいることが、残価の下落という形で跳ね返っているのだ。

日産の米国販売に占めるリースの比率は16年度上期に30%となり、この1年で4㌽上昇した。メーカーにとって、リース販売は3年周期で顧客に買い替えを促すことができるので、販売台数を底上げするには便利な手法だ。

日産は16年、リテール向けの販売台数はほぼ変わらず、フリート(法人)向けで全体の台数を増やした(図表6)。一口にフリートといっても、レンタカー会社向けの乗用車、社用車などさまざまあるが、大口販売のため、リテールより総じて収益性の低い傾向がある。リテール向けのリースと同様、フリートも数年後にメーカーが買い戻す際に残価ロスの発生するリスクがある。

[図表6]
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前出の南カリフォルニアの販売会社オーナーは吐き捨てるように言う。「商品ではなく価格重視で売りさばく日産のやり方では長期的にブランドを構築できない。それは戦略ではなく戦術でしかない」。

こうした批判に、北米地域を統括するホセ・ムニョスCPO(チーフ・パフォーマンス・オフィサー)は「目標を達成しているディーラーの割合からすれば、日産ディーラーの満足度はかなり高い」と弁明する(→関連記事へ)。

東南アジアの大苦戦で 北米に目標達成の重圧

利益や長期的なブランド構築よりも、量を追い求める理由は何なのか。その問いを突き詰めると、ゴーン社長が信条とする「コミットメント(必達目標)経営」に行き着く。日産は、現在取り組む6カ年の中期経営計画「パワー88」で、17年3月までに世界シェア、営業利益率いずれも8%の達成を目指している。