経済学者・思想家・作家 ジャック・アタリ
Jacques Attali / 1943年アルジェリア生まれ。フランス国立行政学院卒業、81年フランス大統領特別顧問、91年欧州復興開発銀行初代総裁。ソ連崩壊、金融バブル、新たなテロの脅威などを予測し、的中させたことで「欧州最高の知性」「EUの予言者」と称される。2016年の米大統領選挙ではトランプ氏の勝利も予見。『21世紀の歴史』『国家債務危機』など著書多数。16年9月、自身の未来予測の手法について記した『アタリ文明論講義』(筑摩書房、林昌宏訳)が刊行。(撮影:尾形文繁)

米大統領選挙でのトランプ氏の勝因は、一般大衆の多くが自国の支配階級や大手メディアを味方につけた人々にうんざりしたことにある。一般大衆の暮らしが日増しに困窮する一方、ヒラリー・クリントン氏を支援した一握りの富裕層の暮らしはますます豪奢になり、彼らはこれ見よがしのぜいたくをするようになった。選挙戦の構図は、経済成長の果実をめぐる「敗者」と「勝者」、グローバリゼーションの「負け組」と「勝ち組」、「昔のほうがよかったと嘆く者」と「将来はもっとよくなると期待する者」の対立であり、選挙で争えば多数派の前者が勝利することは予測できた。

英国のEU(欧州連合)離脱決定の構図も、「地方」と「都市」、「グローバリゼーションの犠牲者」と「資本から利益を得る者」の対立だった。トランプ現象との共通点は人々の懸念であり、心の内に秘められた危機感だ。外国人から己の身を守り、輸入をストップして外国人労働者を締め出せば、安心して暮らせるという感覚だ。しかし、国境を封鎖すれば、安全が確保されると考えるのは幻想だ。人種的な交わりで脅威が生じることを恐れ、自分たちのアイデンティティをかたくなに守ろうとするのも錯覚だ。

保護主義は戦争につながる