歴史的瞬間1

水道哲学の誕生と宗教の存在

産業人の使命は何か、従業員に向け発信していた(写真提供:パナソニック)

水道哲学は、あまたある幸之助の経営哲学の中で最も有名な思想といえる。しかし「水道の水のように、安く無尽蔵に物資を供給して、この世に楽土を建設する」ことを目指した幸之助も、初めから己の使命に自覚的であったわけではない。

1932年、取引先に誘われ、奈良の天理教教会本部を訪問。それが契機となった。信者が喜んで熱心に奉仕する姿や教団の繁栄ぶりを見て感銘を受け、企業と何が違うとこうなるのか考え続けた。そして、「宗教は悩める人々を救い、安心を与え人生に幸福をもたらす。しかし事業経営もまた、人間生活の維持向上に不可欠な物資を生産する聖なる事業だ」「貧を無くすために、生産に次ぐ生産によってこの世に物資を豊富に生み出すこと、そこに我々の使命がある」(『私の行き方考え方』)という気づきを得たのだ。

この気づきを経営理念としたことで、従業員に対しても得意先に対しても、言うべきことを言う力強い経営になったという。また従業員にも使命感が生まれ、「経営に魂が入ったといってもいい状態になった」(『実践経営哲学』)。